「BSマンガ夜話」から |
Update : 1999.5.15
1996年8月23日に放映された「BSマンガ夜話・めぞん一刻」の中から、興味深い発言を選んで掲載しました。
発言に関しては私(ひろゆき)が選択・内容の整理を行い、テーマ別に並べ替えました。文責はすべて私にあります。
いしかわじゅん
西村知美
岡田斗司夫
TARAKO(アニメ「めぞん一刻」に八神の友人・麻美役で出演)
竹熊健太郎
大月隆寛
(紹介順・敬称略)
斉藤 光
松野美由紀
「めぞん一刻」という作品について……
登場人物について……
作者本人に関して……
高橋作品はテーマパーク?……
おまけのコーナー……
斉藤 | この作品に初めて接したときの印象はどうでしたか。 |
TARAKO | 私はアニメからなんで、一巻を見たときのギャップがすごかったですね。全然違うじゃないですか。 |
竹熊 | 響子さんの目がつり上がってんだよね。もっとセクシータイプな感じだったんですよ、最初は。 |
いしかわ | 最初の顔、こわかったよなあ。 |
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竹熊 | めぞん一刻の人間関係ってのは、登場人物全部片思いっていう、よくよく考えるとすごく異常な設定なんですよ。例えばこずえさんは五代君が好きなんですよ。ところが五代君は響子さんにぞっこんで、響子さんは死んだ惣一郎さんに操を立てているわけですよ。最終的に惣一郎さんというブラックホールに、人間関係のベクトルが吸い寄せられていくという構造になっている。 |
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岡田 | 五代君に押し倒されたときに、響子さんは相当五代君の方に想いが行っていて、でもその次のページに行くと、五代君は忘れちゃってて、響子さんは怒る。 |
竹熊 | 関係が進展しそうになると、次のページで戻っちゃうんですよ。 |
岡田 | これって、80年代後半から90年代前半までのトレンディードラマのスタンダードなんですよ。この時代のトレンディードラマって、めぞん一刻のすれ違いってのを積極的にシナリオに導入してるんですよね。 |
竹熊 | すれ違いドラマ自体は、昔からあるんだけど、それを現代に復活させたとも言えるよね。一歩進んで二歩下がるというのかな、それが絶妙のじらし方でね。 |
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斉藤 | 僕は、意外に家族の問題を面白い形で扱っているって思ったんですよ。今、家族って破綻したりしてるけど、この中は昔風の家族があるかなっていうような感じがするんですよ。 |
竹熊 | ただ、これは舞台があくまで一刻館てアパートじゃないですか。アパートってところは、モラトリアムの場じゃないですか。だから、家族のうっとうしさってのとはちょっと離れた場所で、もう一つ家族が出来るわけですよね。 |
斉藤 | 僕はね、最後に(五代と響子が)結婚して集まるところがあるでしょう。それが破綻なくうまくいってるんじゃないかと。そんな風に読めたんですけどね。 |
いしかわ | それはアパートの中に疑似家族を作って、みんなが満足するかたちを作ってハッピーエンドっていう話の作り方だよね。 |
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(「今、五代君が、響子さんや春香ちゃんとどういう暮らしをしているのか見てみたい気もします」というFAXが来たのに対して) | |
西村 | 続編ってのは、やっぱり出ないんですかね。 |
TARAKO | 子供が大きくなった話とか。 |
岡田 | ああ、子供が大きくなって、んでおじいさんとおばあさんの五代君と響子さんが……それはアリかも知れない。 |
大月 | でもこういうシリーズ物で続編で歳取ってくと、うまく行かないっての多いじゃないですか。 |
いしかわ | めぞんは完結しちゃってるからね。子供を抱いてきた、あの時点で完全にエンドマーク打っちゃってるから、あの先この子どもが大きくなってっていうと、なんか夢しぼんじゃうような感じがするよね。 |
西村 | きれいでしたもんね、最後が。 |
(FAXで「響子さんはずるい」という意見が来たのに対して) | |
岡田 | 響子さんがずるいっていうのは、マンガの中でも何度も朱美さんとか一の瀬さんとかが指摘しますよね。そのたびに一応響子さんは悩むんですけど、うまくはぐらかしてるんですよね。そのへんは女の人から見て、確かにむかっとくるってのはあるかも分かんないですけど。 |
斉藤 | さっき竹熊さんがおっしゃったように、惣一郎さんがブラックホールだから、そういうのが許されるんじゃないですか。 |
竹熊 | 惣一郎さんて存在がいなかったら、(響子さんは)すごいヤな女ですよ(笑)。一応、死んだ亭主に操立ててるっていう大前提があるから、言い訳が立つわけじゃない。それがなかったら、ただてんびんにかけてる風にも見えかねない……。 |
TARAKO | 最初の方で、五代君が酔っぱらって響子さんを押し倒しちゃうってシーンがあって、その時に響子さんが『女ってダメね』って言うせりふがあったんですよ。だから、きっと本人は分かってるんじゃないかって思うんですよ。 |
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西村 | TARAKOさん、キャラクターの中でだれが一番好きですか。 |
TARAKO | 私、朱美さんなんですよ。朱美さんて、もしかしたら五代が好きだったんじゃないかなって(同意の声多数)。でもそれをひた隠しにして、いい女じゃないですか。 |
岡田 | ずーっと抑えてますよね、表現が。 |
TARAKO | ラブホテルにも行くじゃないですか、一緒に。あれはでも、響子さんをその気にさせるっていう、わざとやってるような……。 |
岡田 | で、そういうことになった後、朱美さんて必ず響子さんに捨てぜりふを吐きますよね。 |
TARAKO | かわいい女ですよね。だからそういう意味で、響子さんがずるいってのは分かる気はするんですよね。女の人が朱美さんと響子さんを見たら、やっぱり朱美さんが好きな人が多いんじゃないかな。 |
西村 | でも私は響子さんの気持ちが何か分かるんですけど……。 |
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西村 | こずえさんって、すごく性格いいのに(五代君は)何ではっきり言ってあげないんだろうって。優しすぎるから言えないのかも知れないけど、ああいうやさしさってほんとのやさしさじゃないってすごく思うんですけど。 |
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西村 | 三鷹さんって不思議なキャラクターだなって思うのが、ライバルって絶対いじわるだったりとかいやなやつだったりするじゃないですか。意外と一歩大人になって、五代さんをフォローしてあげるところもあったりして、ああこの人すごくいい人って思ってしまうんですよね。 |
岡田 | 最初はわりとヤなやつだったんだよね。 |
竹熊 | わりとセオリーでさ、恋敵はヤなやつっていう。 |
岡田 | でもさ、だんだんいいやつになっていく。 |
TARAKO | 犬が苦手ってのがかわいいじゃないですか。ほらマッケンロー(笑)。 |
岡田 | マッケンローとサラダの間の子供までみんな歯がキラキラしてる。 |
TARAKO | 芸能人は歯が命! みたいな(笑)。 |
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西村 | 明日菜さんで一番笑ったのが、三鷹さんが「あなたとは結婚できません」ってはっきり言ったときに、そのまま倒れちゃうんですよ。あたしこれが一番大ウケしてしまったんですけど。 |
TARAKO | 「尼になります」とか言っちゃうんですよ。 |
岡田 | 「尼になります」! 二十世紀のセリフではないよ(笑)。 |
TARAKO | 男性はこういう女性に弱いんですかね。 |
岡田 | 弱いもくそも、逃げますよ(笑)。ダッシュですよ。三鷹さん、えらいですよ。よくここで受けとめた。おれはもう、倒れるの見た瞬間に、体が後ろ向いて、さようならですよ(笑)。 |
竹熊 | とにかく、表現力のあるすごい女性作家が出てきたなっていうのが、第一印象だった。 |
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岡田 | めぞん一刻が始まったときは、びっくりしましたね。SFっぽい話が得意な人なんだと思ってたら、一切その手の得意技を使わずに、スタンダードなキャラクター劇だけで表現するという表現力とか、絵とかも、見てる最中にどんどんうまくなってくのが分かるんだよね。ファンとかが、一緒に成長した作家の一人として、すごく思い出深いですね。 |
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いしかわ | 高橋留美子は、ストーリーづくりがうまいね。これなんて、ゴールが完全に見えてるのに、どういう形でゴールするか見えてるのに、8年間だっけ? その間手を変え品を変え、それだけでずーっと引き伸ばして、最初と予定通りのゴールになるんだよね。 |
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竹熊 | 話が後半になってくると、高橋留美子さんがいろいろと後フォローを考え出すんだよね。つまり、五代さんと響子さんがくっつくことは最初に決まってるわけだけど、三鷹さんとか他の人たちをどうフォローするか、ってことで明日菜さんとか出したりとか、けっこう優しいんですよね。 |
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岡田 | 高橋さんの作品ってのは、いつも中心に、「女の業」ってのが出てくるじゃないですか。これをコメディに描くとうる星とかめぞんみたいなすれ違いの楽しい話になるんだけど、それを突っ込んでやってくと人魚シリーズになるという。 |
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岡田 | なんか、めぞん一刻の頃は、人間のどろどろしたところと楽しいところを混ぜてたのが、人魚シリーズ始めちゃってから、楽しいのがらんま、どろどろしたのが人魚って風に別れて、逆にらんまが読めなくなっちゃったんですよ。めぞんぐらいがちょうどバランスがよくできてたんだ。 |
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大月 | 高橋さんて、すごくうまくなってるじゃないですか。 |
いしかわ | デビューの頃は、ちょっと書き慣れたアマチュアぐらいだったんだけど、ずいぶんうまくなってる。ただ、変わってないとこがあってさ。高橋留美子の特徴って、この、髪のとこのホワイト。ベタを塗った後に、前髪のところにホワイトで線を入れてくわけだけれど、今時こういう線を入れてくまんが家は、あんまりいない。これだけじゃなくて、技法として、ちょっと古いといえば古いんだよね。最初に高橋留美子が出てきたときに、これはまた古い絵の人が出てきたなあ、新人離れした古さだなあって(爆笑)。 |
竹熊 | 今、これ見て怒ってますよ、高橋さん(笑)。 |
いしかわ | でも、たぶん本人も、それは知ってると思うよ。これだけうまいんだからさ。ストーリー構成のやり方みたいなのも、すごくオーソドックスじゃない。 |
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斉藤 | 高橋留美子さんに答えていただいたアンケートがあるんですけど、「子供時代から思春期にかけて読みふけった作家は」ってのに、石ノ森章太郎先生の「サイボーグ009」、ちばてつや先生の「あしたのジョー」、手塚治虫先生の「どろろ」や「ワンダー3」って、これらの作品を小学校高学年から中学、高校にかけて読みふけったとありますから、やっぱり相当昔のマンガがお好きな人ですね。 |
岡田 | オーソドックスな少年まんがが好きな方なんだね。 |
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大月 | 高橋さん自体は、今端境期ですよね。らんまが終わって。次何出してくるか、楽しみですよね。 |
竹熊 | やっぱり少年誌ですか。 |
岡田 | いや、僕は知りませんよ。 |
いしかわ | でも、やめちゃうとサンデーが厳しいよね。 |
岡田 | うひゃあ(笑)。もう、全くその通りですけど、そんなことをテレビで言えるのはいしかわじゅんさんただ一人ですよ(笑)。 |
西村 | 高橋先生の作品って、うる星やつらから全然違いますね、ボクシングのお話しもありますけど。全部なんか雰囲気が違いますよね。 |
いしかわ | おれはそうでもないんだよなあ。印象としては。高橋留美子の作った、そんなに大きくない世界ってのがあって、その中の右と左の端って感じがするんだけど。高橋留美子は絶対にセックスを描かないじゃない。 |
竹熊 | 五代君が風俗に行くって話はありますよね。 |
いしかわ | でもそれは、そういうこともちょっと匂わしたってことであって……。 |
竹熊 | そうそう、話の核心としては出てこない。 |
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(管理人注:めぞん大好きな方々ならお気付きの通り、最終巻では五代と響子のセックスシーンが出てきます。出演者の方々はそれを忘れていたのかも知れません。ただ私個人の意見としては、あれはセックスそのものを描いたというより、二人が心を通い合わせる過程の一つとして描かれていると思います。そうだとすれば、いしかわ氏らの発言は十分意味があります) |
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いしかわ | おれはねえ、高橋留美子って作家はすごいと思うんだけどね、さっきるーみっくわーるどって話が出てたけど、例えばめぞん一刻館ってのがあって、すごくよくできたテーマパークなんだけど、それがみんな作り物の世界で、外に出ると向こうの側(がわ)が見えるんだよな。だから、もう一つ楽しみ切れないってところがあるんだよね。 |
竹熊 | 世代の差もあるのかしら。 |
いしかわ | 世代の差なのかなあ。 |
竹熊 | うる星やつらの「ビューティフル・ドリーマー」ってのがあって、押井守が監督をやったんだけど、あれがまさに、石川さんのおっしゃったことがテーマなんですよ。要するに夢から覚めて現実に戻りなさいてなことを言っちゃった映画で、箱庭こわしちゃった映画なんですよ。ただし、あれは僕らにとってはショックだったけど、ヤボっちゃあヤボなとこがあるわけですよね。 |
いしかわ | だから、高橋留美子のるーみっくわーるどって閉じられた世界で十分楽しめる世代と、限界を感じてしまう世代があるのかも知れないね。世代って言っていいのか分かんないけど。 |
竹熊 | ただ、押井守はるーみっくわーるどを破壊しちゃったわけですけど、彼自身がそこから先に一歩も進めないんですよね。現実に戻って現実が面白いのか、どう振る舞えばいいのか、それが分からないままに我々の世代は来ちゃったんですよね。 |
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岡田 | 西村さんが「一刻館に住みたいですよ」って言ったときに、竹熊さんがなんとも言えない表情見せて。あんな時間の止まった空間ヤだとか思ったんでしょう。 |
竹熊 | うーん……いや、これはこれでハッピーエンドなんだけど、ほんとだったらある種人間として成長して、一刻館を出て行くっていうさ、モラトリアムの空間を捨てて出てくってのが成長ドラマじゃないですか。 |
岡田 | ところが戻って来るんですよね。 |
いしかわ | そこが、やっぱりテーマパークなんだよな。入口から入って出口から出てくんだけど、その出口ってのは実は入口なんだよな。 |
竹熊 | だからさ、ウォルト・ディズニーみたいなところがあるんじゃないですかね。 |
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大月 | テーマパーク以外の高橋留美子って、ありえますかね。 |
岡田 | いしかわさんにしてみれば、人魚シリーズもテーマパークの中の、ホラーの館なんですよね。 |
いしかわ | うん、おれにはそうとしか読めないんだよね。 |
西村 | めぞん一刻とか読んでて、不思議なことってあるじゃないですか。惣一郎さんの顔とか、四谷さんの職業とか。あと、犬の惣一郎さんの、種類は何ですかとか(爆笑)。 |
いしかわ | それは画期的な疑問だよ(笑)。その疑問には初めて気がついた。 |
岡田 | そんなのを僕たちに聞いて一体何が知りたいんだ(笑)。 |
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いしかわ | 高橋留美子がオタク界に与えた影響って、大きかったよね。 |
岡田 | そう、一時期Tシャツとか、ピヨピヨのエプロンとか、いっぱい売ってましたもんね。コミケ行ったら竹ぼうき持ったピヨピヨエプロンか、もしくはラムちゃん。太いラムちゃん細いラムちゃん、男のラムちゃん女のラムちゃん(笑)、とんでもない環境でしたよ。 |
竹熊 | 三段腹のラムちゃん見たことがあるよ。 |
大月 | 今日はFAXも絵が多かった。圧倒的に絵でしたよ。 |